2024年、繊維業界における特定技能外国人の受け入れが本格的にスタートしました。
深刻化する人手不足の解決策として期待される一方、繊維業で特定技能外国人を受け入れるには、他産業にはない独自の「上乗せ4要件」を満たし、製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会への入会が必須となります。
本記事では、繊維業で入会申請を行うために重要な点を解説します。特に重要な「上乗せ4要件」をはじめとした、繊維業での入会申請とそれを準備するためのポイントをご説明していきます。
なお、協議会申請プロセスの全体像については下記の記事でもご案内しています。併せてご参考にしていただければと思います。
1. なぜ繊維業だけ要件が厳しい?特定技能制度の基本
制度背景と繊維業の特殊事情
日本の繊維産業は、事業者数・就業者数ともに長期的な減少傾向にあり、熟練技能者の高齢化と若手人材の確保難という二重の課題に直面しています。この状況を打開するため、2024年3月の閣議決定により、特定産業分野「工業製品製造業分野」の対象業種として繊維業が追加されました。
一方で、繊維業は過去の技能実習制度において、賃金未払いや長時間労働といった労働基準関係法令の違反が問題視されてきた経緯があります。この反省から、特定技能制度では、外国人材の人権を保護し、適正な労働・取引環境を確保することを目的として、他産業よりも厳格な受入れ条件(上乗せ4要件)が課されることとなりました。
2. 対象となる「繊維工業」とは?
では特定技能の受け入れとなる「繊維業」とは何を指すのでしょう?申請の大前提として、自社の事業が特定技能の対象となる「繊維工業」に該当するかを確認せねばなりません。
自社の事業が対象となる産業分類に該当するか?は加入審査の大きなポイントになります。実はこれ、当たり前のようでこの点で加入が認められないケースが多くなっています。申請検討前に必ず確認するようにしましょう。
これらの対象となる産業は、総務省の『日本標準産業分類』における「中分類11:繊維工業」に該当する製造活動と定められています。
【対象となる業種例】
- 紡績、撚糸、織布、編物、不織布の製造(紡織製品製造)
- 婦人子供服、紳士服、下着、寝具、帆布製品、布はく、座席シートなどの製造(縫製)
- 染色、仕上加工など

具体的な業種の確認方法を下記の記事でもご紹介しているのでぜひご覧ください。
また、協議会への加入は実際に製造を行う事業所(工場)単位で行う必要があります。企業単位での申請はできません。
3.【最重要】繊維業の「上乗せ4要件」審査ポイントと提出書類
ここが最大の関門です。協議会への入会には、以下の「上乗せ4要件」をすべて満たしていることを、具体的な書類で証明する必要があります。経済産業省が示す審査のポイントと合わせて、何をすべきかを確認していきましょう。
要件分類 | 内容 | 審査のポイント |
---|---|---|
1. 国際人権基準への適合 | ILO基準等に準拠した人権尊重の取り組み | 第三者認証・監査の証明書(または誓約書)の提出 |
2. 勤怠管理の電子化 | 客観的で改ざんが困難な労働時間の管理 | 認定システムの導入証明と実際の稼働状況を示す写真の提出へ移行 |
3.パートナーシップ構築宣言の実施 | サプライチェーン全体の取引適正化への意思表示 | ポータルサイトでの公表と証明スクリーンショット等の提出 |
4.月給制での給与支給 | 毎月安定した給与体系の確立(日給月給制は不可) | 規定様式での誓約書の提出 |
各要件の詳細と、証明書類の準備について解説します。
3-1. 国際的な人権基準への適合
【求められること】
外国人を適正な環境で受け入れることを証明するため、 ハラスメント対策、安全衛生、差別の防止など、ILO(国際労働機関)条約に準拠した労働環境を整備し、その取り組みを証明する必要があります。
【対象となる監査・認証】
対象となる監査・認証は以下のとおりです。
GOTS |
OEKO-TEX STeP |
Bluesign |
Global Recycled Standard (GRS) |
日本アパレルソーイング工業組合連合会-取引行動規範ガイドライン |
Japanese Audit Standard for Textile Industry(JASTI) |
上記の中でも特にJASTIは2025年に策定された新しい評価基準となります。

上乗せ要件クリアのためには上記いずれかの取得が必要。
【証明方法】
以下の3点が記載されている監査・認証のレポートや認定証の提出が必要となります。
- 上記リストに掲載されている第三者機関による監査・認証のいずれかを取得していること
- 有効期限が3ヶ月以上残っていること
- 申請する事業所単位で取得していること
上記の監査・認証の取得には一定の時間がかかるため、必ずこちらを最初に取得することを強くお勧めしています。 また事業所単位での取得が必要になるなどの点も注意しましょう。
3-2. 勤怠管理の電子化
【求められること】
客観的で改ざんが困難な方法で、労働時間を正確に記録・管理する体制が必須です。紙のタイムカードや手書きの出勤簿は認められません。対象となるシステムの要件も公表されていますが、現実的には要件に沿うシステム・サービスを導入する形になります。
【対象となるシステム】
こちらに対象となる登録システムの一覧が掲載されています。
2025年6月時点では58個のシステムが掲載されており、採用企業が自由に選べる形となっています。
【審査のポイント】
- リストに掲載されているシステムのいずれかを導入していること、 又はシステムの要件を満たす仕組み(自社開発システム等を想定)を導入していること
- 受入れ事業所で活用されていること
【提出書類】
上記の審査上のポイントをクリアしていることを証明するため、下記の書類を提出する必要があります。実際に活用されているところまで写真等できちんと示す必要があります。
- リストに掲載されているシステムを導入していることを証明する画像等(契約書、領収書等を想定)
- 活用状況の写真(事業所内の設置場所等)(商品の宣伝写真などは不可)
- 自社開発等のため1.を提出できない場合は、システムの要件を満たしていることを明瞭に示す画像等
こちらは写真などで実際に活用されていることをきちんと示す必要があります。システムの選定、導入にも一定の時間がかかるため、前もって行うようにしましょう。
3-3. パートナーシップ構築宣言の実施
【求められること】
「下請けいじめ」などの不公正な取引をなくし、サプライチェーン全体で共存共栄を目指す姿勢を社会に示すことが求められます。このため内閣府等が行なっている「パートナーシップ構築宣言」を行う必要があります。

【審査のポイント】
「パートナーシップ構築宣言」を実施していること
(パートナーシップ構築宣言は企業単位であることから、事業所単位でなくともよい)
【提出書類】
- 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト上の自社が掲載されている箇所に赤枠をつけて強調した画像(スクリーンショット等を活用)
- HPに掲載されている宣言文のpdfファイル
- 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトの掲載URL
3-4. 月給制での給与支給
【求められること】
外国人材が毎月安定した収入を得られるよう、給与体系を「月給制」にすることが義務付けられています。生産量に応じた出来高払いや、時給制は認められません。
【提出書類】
規定の様式の誓約書を、受入れ企業の代表者名で提出することが求められます

4. 書類準備と不備防止の実務ポイント
上乗せ要件に加え、事業の実態を証明するための書類も重要です。特に繊維業では「本当に自社で製造しているのか」という点が厳しく審査されます。
繊維業特化の必要書類チェックリスト
書類の種類 | 内容・注意点 |
---|---|
製品画像 | 現在製造している製品の全体像が分かる写真。 |
完成品画像 | 製品が出荷される際の梱包状態が分かる写真。 |
設備画像 | 製造に使用している主要な機械・設備の写真と、その設備の説明文。 |
出荷証憑 | 納品書、請求書、注文書など、直近の出荷実績が分かる書類。 |
委託契約書 | 製造を他社から受託している場合に必要。 |
理由書 | 上記の画像や書類が提出できない場合に、その正当な理由を説明する書類。 |
特に注意すべき点
- 製品画像・設備写真は複数アングル(上・横・斜め)からの撮影が推奨される
- 設備画像には、機器の名称・製造元・設置場所・使用目的を簡潔に記した説明文を添えること
- 写真内に日付入りプレートや製品識別コードを写すと信頼性が高まる
- 出荷証憑と製品画像の内容に製品名や型番の一致があるか確認
- 「委託製造」の場合は、委託元との契約書だけでなく、実際の製造風景や設備証明も必要になる
申請書類作成時に留意すべきポイント
- 画像の解像度と説明文:
不鮮明な画像は再提出の原因になります。スマートフォン等で撮影し、製品や設備の内容が明確に分かるようにしましょう。 - 証明の一貫性:
製品、設備、出荷証憑の内容に一貫性を持たせ、「自社でこの設備を使ってこの製品を製造し、出荷している」というストーリーが明確に伝わるように整理します。 - テンプレートの遵守:
すべての書類は、協議会が指定するテンプレートに沿って作成・提出することが原則です。
その他、よくある「落とし穴」を下記の記事まとめています。合わせてご覧ください。
4. よくある不備とQ&A
最後に、申請でつまずきやすいポイントと、よくある質問をまとめました。
よくある不備と防止策
- 産業分類の誤認: 対象外の「衣服製造」で申請してしまうケース。必ず自社の産業分類を確認しましょう。
- 書類の不備: 日付の記入漏れ、代表者印の押し忘れ、本社の住所と工場の所在地が違う、といったケアレスミスが散見されます。
- 画像の不備: 暗くて何が写っているか分からない、スクリーンショットを提出してしまう、といったケース。提出前に必ず見直しましょう。
⇒ 防止策: 書類がすべて完成したら、申請担当者以外の第三者(上司や同僚など)にダブルチェックを依頼することを強く推奨します。
以下の記事では提出前の確認をするためのチェックリストをダウンロード可能な形式で掲載しています。合わせて参考にしてみてください。
繊維業関連 Q&A
Q. 1つの事業所に、対象となる繊維工業と対象外の作業(例:衣服の縫製)が混在しています。申請できますか?
A. 主たる事業内容でなくとも、製造品目の中に「中分類11:繊維工業」に該当する製品があれば、その製造部門を対象として申請が可能です。
Q. 複数の工場があります。本社で一括申請できますか?
A. できません。申請は、実際に製造を行う工場単位で行う必要があります。たとえ同じ法人であっても、所在地や製造実態が異なる場合は、それぞれ個別に申請が必要です。
まとめ:申請成功のための3つの鉄則
以上、繊維業の特定技能協議会への入会についてご案内しました。繊維業は、他産業に比べて複雑で要求水準も高いですが、ポイントを押さえれば必ず乗り越えられます。
- 【事前確認】自社が上乗せ4要件をクリアできるか、冷静に診断する。
- 【書類準備】「なぜこの書類が必要か」を意識し、第三者が見ても納得できる証明を心がける。
- 【最終確認】提出前に必ず第三者の目でダブルチェックを行い、ケアレスミスを防ぐ。
これらのステップを確実に実行することが、スムーズな承認への近道です。
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株式会社インジェスター所属。2020年に入管庁の「特定技能総合支援コールセンター」センター長に就任。以後、出入国在留管理局での窓口対応、特定技能マッチングイベントの運営責任者、経産省の特定技能製造業協議会の事務局統括などを歴任。製造業分野における特定技能外国人受入れ支援で3年以上の実務経験を有し、申請サポートや協議会加入に関する豊富な知見を持つ。